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個人事業主としての売り上げが増えてきた際に悩むのが「法人成りのタイミング」です。個人事業主と法人とでは、税金の計算の仕組みや社会的信用が異なります。
本記事では、法人成りの適切なタイミングを解説します。2023年10月から始まるインボイス制度を踏まえた対応や、具体的な法人成りの方法、法人成りのメリット・デメリットについても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
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目次
法人成りとは、個人事業主が株式会社や合同会社などの法人を設立し、設立した法人に事業を引き継ぐことです。法人成りする目的は個人事業主によってさまざまですが、節税や社会的信用の向上、事業の拡大などを目的とした法人成りが多くみられます。
法人成りは「必ずこのタイミングで法人成りをしなくてはいけない」といった決まりはありません。
そのため、自分自身で適切な法人成りのタイミングを見極める必要があります。適切なタイミングで法人成りできれば、節税や事業拡大の面で大きなメリットが得られるでしょう。
「利益が800万円を超えたとき」は法人成りを検討すべきタイミングの一つです。
個人事業主と法人とでは、所得に対してかかる税金が異なります。とくに注目したいのが個人事業主の所得にかかる所得税です。所得税の計算方法は累進課税で、所得が上がるほど、所得税率は高くなります。所得税率は以下のとおりです。
所得金額 | 税率 | 控除額 |
1000円~194万9000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9000円 | 10% | 9万7500円 |
330万円~694万9000円 | 20% | 42万7500円 |
695万円~899万9000円 | 23% | 63万6000円 |
900万円~1799万9000円 | 33% | 153万6000円 |
1800万円~3999万9000円 | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
所得金額が100万円なら、所得税率は5%で所得税は5万円です。一方で、所得が4000万円の場合の所得税率は45%で、控除額を差し引いたあとの所得税は1320万4000円となります。個人事業主で所得が低い方は税金が安くすみますが、所得が高い方は税負担が重くなります。
法人で、個人事業主の所得税に匹敵するものが「法人税」です。資本金1億円以下の法人の法人税は、所得800万円までの税率は15%、800万円を超える部分の税率は23.2%となります。800万円をいくら超えても、23.2%より税率があがることはありません。
そのため、所得が高い方は法人成りをした方が税金を安く抑えられます。税金面で、個人事業主よりも法人の方が有利になると一般に言われる分岐点が、「年間利益800万円」です。
年間利益が800万円を超えて税負担が重いと感じている方は、法人成りを検討してみてください。
課税売上高が1000万円を超えた場合も、法人成りを検討すべきタイミングです。現在免税事業者の個人事業主は、売上高が1000万円を超えた2年後から課税事業者となり、消費税を納める必要が生じます。この決まりは、個人事業主も法人も同じです。
ただし、納税義務が生じた個人事業主が法人成りすれば、消費税の納付義務が免除される可能性が高いです。これは、個人事業主と法人は別人格であるためです。法人成りすれば、個人事業主時代の2年前の売り上げはなかったこととなり、設立した法人の消費税の納付義務は免除されます。
ただし、資本金が1000万円以上の場合や法人設立1年目の前半6ヶ月で課税売上が1000万円を超える場合などは、初年度から消費税を納める必要があるので注意しましょう。
また、売上高が1000万円を超えた2年後からは、納税義務が生じます。
法人成りすれば信用力が増し、事業拡大をおこないやすいです。
法人成りすると銀行からの融資が受けやすくなったり、投資家からの出資を受けたりすることが可能です。また、企業によっては法人としか取引をしない企業もあります。法人成りすれば、これらの新規取引先の開拓が可能です。
そのため、事業拡大のために多額の資金が必要な際や取引先を開拓したい際は、法人成りを検討してみてください。
法人成りは、従業員の雇用にも有効です。法人成りすると、厚生年金や労災保険などの社会保険への加入が必須となります。そのため、従業員の福利厚生が充実し、働きやすい環境の実現が可能です。
また、就職活動をする人にとっても、個人事業主よりも法人の元で働くほうが安心感は大きいでしょう。
2023年10月からのインボイス制度導入により、消費税を意識した法人成りの考え方やタイミングは変わります。
インボイス制度開始後は、外注先や仕入先からの適格請求書がないと仕入税額控除ができなくなります。しかし、免税事業者は適格請求書を交付することができません。適格請求書を発行するためには、課税事業者となり適格請求書発行事業者の登録が必要になります。
例えば、これまで免税事業者に100万円(税抜)の仕事を外注すると、免税事業者に支払う消費税10万円は、納める消費税から控除できていましたが、インボイス制度開始後は控除ができなくなります。
そのため、インボイス制度開始後も免税事業者でいると、取引先が仕入税額控除をできずに損失を被る可能性があります。このことを考慮し、今まで免税事業者だった個人事業主や法人は取引上の必要性から課税事業者になり、適格請求書発行事業者の登録をすることが予想されます。
法人成りを検討している個人事業主がインボイス制度により適格請求書発行事業者(課税事業者)になることを選択する場合、インボイス制度の開始前にできるだけ早く法人成りをおこない、インボイス制度開始までの免税期間のメリットを活用するとよいといえます。
インボイス制度についてには下記の記事に詳しく解説しております。ぜひ、合わせてご覧ください。
法人成りの具体的な手続き方法は以下のとおりです。
法人成りする際は、まず以下のような会社の基本事項を決定します。
基本事項は、会社の土台となるものなので慎重に決定しましょう。
会社の設立には定款が必要になります。定款とは、「基本事項などの会社の規約を記録した書類」です。紙だけでなく、電子データ(電子定款)での作成もできます。
定款を作成したら、公証役場に持っていき認証を受けましょう。公証役場に持っていく前にFaxなどで事前に定款を送っておき、訂正すべき点などがないかを確認しておくと手続きがスムーズに進みます。
資本金を口座に振り込みます。会社の口座は登記が完了しないと開けないため、資本金は発起人の個人口座に振り込むことが一般的です。
資本金は1円から設定できますが、あまりにも低額だと金融機関から信用力を疑われることがあります。一方で、資本金を1000万円以上に設定すると課税事業者になってしまうなどの注意点もあるので、税理士などの専門家に相談してみましょう。
すべての法人は登記が必要です。法務局ホームページより設立登記申請書をダウンロードしてください。紙での申請と電子申請の選択が可能です。設立登記申請書は様式が定められているので、様式にしたがって作成しましょう。
作成した設立登記申請書は、定款や発起人決定書などの他の必要書類とともに法務局に申請します。
登記申請の他にも、所轄の税務署への法人設立届出書や青色申告書の提出が必要です。
会社設立は、定款の作成に始まり、登記申請や法人設立届出書、青色申告書などさまざまな手続きが必要となるため、スケジュールに余裕を持って取り組みましょう。
法人成りの手続きに加え、個人事業主を廃業する場合には、「個人事業の開廃業等の届出書」を提出します。提出期限は、廃業した日から1ヶ月です。
個人事業の廃業は、税務署に加えて都道府県や市町村にも申請が必要です。提出様式などは自治体により異なるので、事前に確認しておきましょう。
法人を設立したら、法人名義の口座を開設します。
法人口座の開設は義務ではないので、法人成り後も個人名義の口座を使っても問題ありませんが、取引先からの信用や社会的信用を考え、法人口座を開設する場合が一般的です。
法人成りして株式会社を設立する場合に係る費用は約25万円です。内訳は以下のとおりとなります。
印紙代は、電子定款の場合には発生しません。また、定款作成や登記手続きを税理士などの専門家に依頼すると、支払報酬費用がかかります。
法人成りの主なメリットは以下のとおりです。
個人事業主としての利益が800万円を超えると、法人成りすることで節税のメリットを得られる場合が多いです。また、売り上げが1000万円を超え課税事業者になる予定の個人事業主が法人成りすれば、納税義務を一定期間回避できます。
ただし、インボイス制度開始により、取引先やビジネスモデルによっては課税事業者になった方がいい場合もあるので注意しましょう。
法人成りすれば、社会的信用度が上がります。企業によっては、法人としか契約をしない企業もあるでしょう。
また、銀行からの融資が受けやすくなったり、投資家から出資を受けられるようになったりします。
法人成りすれば、役員報酬の経費計上が可能です。適正な額を役員報酬として計上できれば、節税効果が期待できます。
役員報酬をいくらに設定すべきかは、法人の事業実態や役員の他の所得などにより異なるので、税理士に相談してみてください。
法人成りするデメリットは以下のとおりです。
法人は、従業員の社会保険への加入が必須です。個人事業主が加入すべき社会保険は国民健康保険と国民年金保険のみですが、法人の従業員は、これらに加え労災保険や雇用保険、厚生年金保険などにも加入します。
社会保険料は会社と従業員が負担する仕組みです。従業員にとっては手厚い保障にお得に入れることがメリットですが、会社にとっては従業員の社会保険料の負担はデメリットでしょう。
法人は経理処理が煩雑です。今まで発生していなかった社会保険の経理処理が発生します。また、法人成りに伴い融資などを受ければ、利息の支払いなどの経費処理も必要です。
また、法人成りをする際に従業員を雇えば、従業員の給与管理や人事評価などの手続きも発生します。これらは事業を大きくするためには欠かせないことですが、さまざまな事務手続きが増えることはデメリットです。
法人は、赤字でも税金が発生します。個人事業主は、赤字であれば原則税金はかかりません。しかし、法人は赤字でも法人住民税約7万円の納税が必要です。
事業規模が小さい場合や手元に十分な資金がない場合、年間7万円の支出はかなりの痛手となるでしょう。
法人成りの適切なタイミングについて解説しました。法人成りを適切なタイミングでおこなえば、節税のメリットや社会的信用を得られます。一方で、法人成りのタイミングを間違えると、住民税の支払いや事務手続きの煩雑さに後悔するかもしれません。
また、法人成りには定款作成や登記などのさまざまな手続きが必要です。すべてを1人でおこなうのは大変ですし、判断や手続きがあっているのか不安に思う方もいるでしょう。
千代田税理士法人では、法人成りのタイミングなどに関するご相談だけでなく、会社設立時の定款作成や最適な資金調達方法についてのお悩みにも対応いたします。初回のご相談は無料で承りますので、お気軽にお問い合わせください。