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事業が伸びてきた個人事業主の方から、法人化すべきかというご相談を多くいただきます。
ただ、法人化は節税だけの話ではありません。税金が下がる一方で、社会保険料や維持コストは確実に増えます。
法人化を判断するときは、所得税と法人税の税率差だけでなく、役員報酬、消費税、社会保険、融資や取引先からの信用まで含めて見る必要があります。
売上や利益の金額だけで機械的に決めると、かえって手取りが減る場合もあります。
この記事では、個人事業主が法人化するメリットとデメリットを整理し、どのようなタイミングで検討すべきかを解説します。
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法人化とは、個人で営んできた事業を新しく設立した会社へ引き継ぐことです。法人成りとも呼ばれます。扱う商品やサービスが変わらなくても、税金・社会保険・対外的な信用の扱いは根本から変わります。
最大の変化は、所得が2つに分かれる点です。個人事業主のときは、事業の利益がそのまま自分の所得になりました。
法人化すると、会社の所得と、自分が受け取る役員報酬という個人の所得に分かれます。この分離が、以降で説明するメリットのほとんどの出発点です。
法人化で何が変わるのかを、5つの視点で並べます。
| 視点 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 課される税金 | 所得税・個人住民税など | 法人税・法人住民税など |
| 税率の構造 | 超過累進税率(5〜45%) | 比例的(普通法人23.20%) |
| 社会保険 | 原則として国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金保険に加入 |
| 赤字の繰越 | 青色申告で翌年以後3年 | 青色申告で10年 |
| 対外的な信用 | 屋号のみで登記されない | 商号・所在地・役員が登記される |
税率の構造が変わる点と、社会保険の扱いが変わる点。この2つが損得を大きく左右します。それぞれ後の章で詳しく説明します。
ご相談のきっかけは、大きく4つに分かれます。
きっかけによって重視すべきメリットは変わります。節税が目的でない場合、税額の試算だけでは判断を誤ります。
法人化の代表的なメリットは、税率の構造が変わる点にあります。所得税は所得が増えるほど税率が上がります。一方で法人税の税率は一定の水準で頭打ちになります。
所得税は超過累進税率です。課税所得195万円未満の5%から始まり、4,000万円以上では45%に達します。これに個人住民税の所得割が加わります。所得割の標準税率は10%です。
法人税の税率は、普通法人で23.20%です。資本金1億円以下の中小法人は、所得のうち年800万円以下の部分に15%の軽減税率が適用されます。
この軽減税率は、令和9年3月31日までに開始する各事業年度が対象です。
所得税の速算表は次のとおりです。
| 課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
| 1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
| 3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
| 6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
| 9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
| 18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
| 40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得が一定の水準を超えると、税率の面では法人が有利になる領域が生まれます。
ただし注意点が2つあります。令和7年4月1日以後に開始する事業年度で所得金額が年10億円を超える場合、年800万円以下の部分の税率は17%です。
また前3事業年度の所得の年平均額が15億円を超える法人は、軽減税率の対象から外れ19%が適用されます。
赤字の扱いも法人が有利です。個人事業主の青色申告では、純損失を翌年以後3年間繰り越せます。法人の場合、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金を10年間繰り越せます。
さらに控除できる金額にも差があります。中小法人等以外の法人は、繰越控除前の所得金額の50%が上限です。資本金1億円以下などの中小法人等にはこの制限がありません。
設備投資が先行する事業や、年ごとの利益の振れ幅が大きい事業ほど、この7年の差が効いてきます。
個人事業主の計算期間は1月1日から12月31日で固定されています。確定申告は毎年2月から3月です。繁忙期と申告時期が重なっても動かせません。
法人は事業年度を自由に設定できます。繁忙期を外して決算作業を組めます。在庫が少ない月を期末にすれば棚卸の負担も軽くなります。納税時期を資金繰りに合わせて設計できる点も利点です。
法人化すると、事業の利益を会社に残す分と、自分に給与として払う分に分けられます。この分散が税負担に効きます。
個人事業主は自分に給与を払えません。事業の利益がそのまま課税の対象です。法人では、自分に役員報酬という形で給与を支給します。この役員報酬は給与所得となり、給与所得控除の対象になります。
同じ手取りでも、課税の対象となる金額を圧縮できます。家族に役員報酬や給与を支払って所得を分散する設計も可能です。ただし業務の実態に見合わない金額は認められません。
給与所得控除の額は次のとおりです。令和7年12月1日に施行され、令和7年分から適用されています。
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 1,900,000円まで | 650,000円 |
| 1,900,001円〜3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
| 3,600,001円〜6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
| 6,600,001円〜8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
| 8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
個人事業主にも青色申告特別控除があります。複式簿記による記帳と貸借対照表の添付などの要件を満たすと最高55万円です。
さらに電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行うと最高65万円になります。法人化後は事業所得ではなく給与所得として計算される点を押さえてください。
所得の分散にはルールがあります。役員報酬は事業年度の途中で自由に増減できません。利益が出たから期末に増額するという使い方はできない仕組みです。
そのため、期首の段階で年間の利益見込みを立てて金額を決めます。報酬を高く設定しすぎると個人の税・社会保険料が増えます。低くしすぎると会社に利益が残り法人税が増えます。この設計は法人化した初年度でつまずきやすい部分です。
個人事業主には、自分への退職金という制度がありません。法人であれば、役員に支給する退職金のうち適正な額のものを損金にできます。
損金に算入する時期は、原則として株主総会の決議などで金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。実際に支払った事業年度に損金経理をした場合、その事業年度の損金とすることも認められます。
取締役会で内定した金額を先に未払金へ計上しても、その時点では損金になりません。適正額は在任期間や功績で判断するため、事前の設計が必要です。
「法人化すれば消費税が2年間免除される」という説明を目にします。この説明は現在そのまま当てはまりません。前提が変わっているため、正確に押さえてください。
消費税の納税義務は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば原則として免除されます。基準期間とは、法人の場合は前々事業年度です。設立したばかりの法人には基準期間がないため、この点で有利になる余地があります。
ただし、例外があります。特に注意したいのが、法人化後に適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス発行事業者として登録する場合です。
インボイス登録を受けると、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、消費税の納税義務は免除されません。
そのため、法人化によって必ず消費税が2年間免除されるとはいえず、取引先との関係やインボイス登録の必要性も含めて判断する必要があります。
取引先が課税事業者中心の業種では、インボイス登録が事実上の前提になります。登録すれば免税の余地はなくなります。免税を主な目的として法人化しても、狙った効果が出ない場合があります。
なお、免税事業者からインボイス登録した事業者向けの2割特例があります。適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。
個人事業者については、令和9年分・令和10年分の申告で3割特例を適用できると国税庁が案内しています。個人のまま続けた場合との比較では、この点も計算に入れてください。
法人化の効果は節税に限りません。取引・資金・人の3つの面で選択肢が広がります。むしろこちらを目的に法人化するケースは少なくありません。
法人は設立の登記によって、商号・所在地・役員などが公示されます。相手方が取引前に実在性を確認できる状態になります。この違いが、与信審査・融資・採用の場面で効いてきます。
企業によっては、取引先を法人に限る方針を定めている場合があります。入札の参加資格に法人格が求められることもあります。個人事業主のままでは検討の土俵に乗れません。
登記情報は誰でも確認できるため、相手方は事業の継続性を確かめられます。取引の規模が大きくなるほど、この確認しやすさが取引可否を分けます。
金融機関からの借入では、事業計画と決算書を法人単位で示せます。個人の家計と事業の資金が混ざっていない点も評価されます。創業期の融資では、日本政策金融公庫の制度がよく使われます。
さらに、出資による資金調達は法人でなければできません。将来的に外部から資本を入れる、あるいは事業を譲渡する可能性があるなら、法人格は受け皿として機能します。
千代田税理士法人では日本政策金融公庫と連携しており、顧問契約をご利用中のお客様には、創業融資のご相談や書類準備の支援を追加料金なしで行っています。
法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の適用事業所となります。求職者から見れば、社会保険が整っている点は待遇面の安心材料です。
経営者自身も厚生年金に加入します。国民年金だけの場合と比べ、将来受け取る年金額に反映されます。ただしこれは負担増と表裏の関係にあります。デメリットの章で改めて扱います。
交際費の扱いにも差があります。中小法人は、年800万円までの定額控除限度額と、接待飲食費の50%相当額のどちらかを選べます。
1人当たり10,000円以下の飲食費は交際費等から除かれます。この金額基準は令和6年4月1日以後に支出する分からで、それ以前は5,000円以下でした。
法人契約の生命保険も選択肢に入ります。契約内容に応じて保険料の一部または全部を損金にできる場合があります。
ただし最高解約返戻率などに応じて資産に計上するルールがあり、一律に全額が損金になるわけではありません。
メリットだけを見て法人化すると、手取りが減る場合があります。差し引きで判断するために、増える負担を先に把握してください。
増えるものは3つあります。社会保険料、赤字でも発生する税金、そして事務負担と専門家の費用です。いずれも売上に関係なく固定的に出ていきます。
法人の事業所は、従業員がいなくても適用事業所になります。代表者1人の会社でも加入対象です。一方、個人の事業所は常時5人以上の従業員がいる場合が原則で、農林漁業やサービス業などは除かれます。
保険料は会社と本人で折半します。ただし一人社長の会社では、どちらも実質的には自分の負担です。国民健康保険・国民年金からの切り替えで負担額がどう変わるかは、役員報酬の設定額によって大きく動きます。法人化の損得を分ける最大の要素がここです。
法人住民税の均等割は、所得がゼロでも課されます。個人事業主のときにはなかった負担です。金額は資本金等の額と従業者数、所在する自治体によって決まります。
東京都の特別区内のみに事務所を有する法人の場合、資本金等の額が1,000万円以下かつ特別区内の従業者数が50人以下であれば、年70,000円です。
従業者数が50人を超えると年140,000円になります。資本金等の額が1,000万円を超え1億円以下では、50人以下で年180,000円です。
法人の決算書と法人税申告書は、個人の確定申告より作成の負担が大きくなります。実務上は税理士へ依頼するケースがほとんどです。社会保険や労働保険の手続き、役員変更の登記なども継続的に発生します。
この費用を織り込まずに試算すると、法人化後に想定と違う結果になります。千代田税理士法人では、創業3年以内の法人・個人事業主のお客様向けに創業支援特別料金を設けています。
当社で会社設立からご依頼いただいた場合は、初年度の顧問料割引制度により年間24万円の負担を軽減しています。(割引対象期間は1年間)
令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、防衛特別法人税が課されています。基準法人税額を課税標準とし、税率は4%です。基礎控除は年500万円です。
基礎控除があるため、納付する税額が生じない法人は少なくありません。ただし税額がゼロの場合でも申告書の提出は必要です。法人化の損得を試算するときは、この制度も前提に含めてください。
判断は数字だけでは決まりません。事業の性質まで含めて見ないと、固定費だけが増える結果になります。判断の軸は4つです。
第一に手取りベースの比較、第二に利益が継続するかどうか、第三に取引や資金調達といった事業側の事情、第四に数年先の見通しです。所得の水準は目安の1つにすぎません。
比較するのは税額ではありません。税金・社会保険料・法人の維持コストをすべて引いた後の手取りです。所得税と法人税だけを並べた比較では、社会保険料の増加が抜け落ちます。
役員報酬をいくらに設定するかで、この結果は変わります。同じ利益でも報酬設計しだいで手取りが数十万円単位で動きます。年収別の具体的な試算については、「法人化のベストタイミングは?年収別シミュレーションで判断基準をわかりやすく解説」で解説しています。
単発の大型案件で一時的に売上が伸びただけの場合、法人化は慎重に考えてください。翌年に利益が戻ると、社会保険料と維持コストだけが残ります。利益が2期以上続けて出ているかを目安にしてください。
数年以内に事業を縮小する見込みがある場合も同様です。法人は解散と清算の手続きに費用と時間がかかります。設立より閉じるほうが手間は大きくなります。
税額だけを見た判断は誤りやすい領域です。社会保険、役員報酬の設計、消費税とインボイス、この3つを一体で見る必要があります。どれか1つを最適化すると、別のところで負担が増える構造になっているためです。
千代田税理士法人は、前身となる会計事務所が1959年1月に神田神保町でスタートした、創業60年を超える会計事務所です。
10名以上の税理士が在籍し、代表税理士が最初から直接対応します。初回のご相談は無料で、オンラインでも承っています。
判断が固まった後の実務手順を、設立から個人事業の廃業まで通しで示します。はじめに基本事項を決めます。会社の形態、商号、本店の所在地、資本金の額、事業年度、役員構成です。
次に定款を作成し、株式会社であれば公証人の認証を受けます。その後、法務局へ登記を申請すると会社が成立します。
判断の軸は、設立の費用と対外的な信用のどちらを優先するかです。
株式会社の設立登記にかかる登録免許税は資本金の額の0.7%で、15万円に満たないときは15万円です。合同会社は同じく0.7%で、6万円に満たないときは6万円です。
株式会社は定款の認証が必要です。認証手数料は資本金の額等に応じて3万円・4万円・5万円です。発起人が3人以下の自然人であるなど一定の要件を満たし、資本金の額等が100万円未満の場合は1万5,000円です。
合同会社に定款の認証は不要です。紙の定款には収入印紙4万円が必要ですが、電子定款であれば不要です。
千代田税理士法人では、会社設立の手数料を0円で承っています。(適用には条件があります)
設立の相談料とシミュレーション、電子定款による印紙代4万円も0円です。司法書士・行政書士・弁護士・社会保険労務士との5士業連携で登記から労務まで一括して対応します。
なお、ご自身で株式会社を設立する場合の費用は約25万円前後です。
会社が成立したら、期限のある届出を順に進めます。法人設立届出書は、設立の日、つまり設立登記の日以後2か月以内に提出します。
青色申告の承認申請書は期限に注意が必要です。設立第1期については、設立の日以後3か月を経過した日と、その事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までに提出します。
遅れると初年度に青色申告を適用できません。欠損金の10年繰越も使えなくなります。
役員報酬を支払う場合は、給与支払事務所等の開設届出書を開設から1か月以内に提出します。あわせて社会保険の新規適用手続きと法人口座の開設も進めます。
法人を設立しても、個人事業の側の手続きは自動的には終わりません。個人事業の開業・廃業等届出書と、青色申告の取りやめ届出書を提出します。事業を廃止した年分の確定申告も必要です。
個人で使っていた資産や在庫、契約の引き継ぎも発生します。車両や設備を法人へ移す方法には、売買・現物出資・賃貸借があります。
どの方法を選ぶかで消費税や譲渡所得の扱いが変わります。賃貸借契約や許認可、取引先との契約は個別に名義変更が必要です。
ここは判断を誤りやすいため、設立前に整理しておくことをおすすめします。
個人事業主が法人化するメリットは、次の7点に整理できます。
一方で、社会保険料・法人住民税の均等割・事務コストは固定的に増えます。インボイス登録をしている場合、消費税の免税を狙う余地はありません。法人化の判断は、税額ではなく、すべてを差し引いた後の手取りで比べてください。
判断の分かれ目は所得の水準だけではありません。利益が継続しているか、取引先や資金調達の事情があるか。この2点を含めて考えてください。
法人化してから戻すには手間も費用もかかります。迷う段階で専門家に相談するほうが、結果的に安く済みます。